不動産は不動産会社を通さなければ売買できないのでしょうか?
いいえ、そのようなことはありません。
不動産は買い手と売り手、双方が合意すれば個人間でも売買することは可能です。
ですが、個人間で売買することによって仲介手数料を節約できるなどのメリットがある一方、不動産会社を通さずに売買取引を行うとトラブルが発生する危険性が高くなるため、個人間で売買取引を行うには十分に注意が必要です。
この記事では、個人間売買で注意するポイントやメリット・デメリット、個人間売買の進め方などについて詳しく解説していきます。
不動産会社へ支払う仲介手数料を節約し、個人間売買にトライしたいと考えている方はぜひご覧ください。
不動産は個人間で売買可能
不動産は個人間で売買することが可能です。
不動産取引のルールが詳細に決められているのは、不動産会社が営利目的で仲介を行う場合で、個人間で不動産を売買する際には法的なルールなくして売買することができます。
ただし、個人間で売買することでトラブルが起こる可能性も高くなるため十分に注意しましょう。
売り手と買い手の直接取引に資格は必要ない
不動産を個人間で売買することに、資格は必要ありません。
「不動産の売買には宅建士の資格が必要なのでは?」と思っている人も多いかもしれません。
あくまでそのような資格は不動産売買の仲介を行う際に関わってくるものなので、売主と買主の直接取引については何の資格も必要ありません。
個人間では細かい法律のルールが適用されない
不動産の売買というと、契約書や重要事項説明書などを作成して交付する義務があるなど、法律で細かい取り決めがあると思っている人も多いのではないでしょうか?
確かに、不動産の取引は宅地建物取引業法という細かい法律の規制のもとで行われますが、この宅地建物取引業法に該当するのは不動産会社などが不動産取引を業(営利目的)として行う場合です。
そのため、個人間の不動産売買であれば契約書や重要事項説明書を作成しなくても法律上は問題ありません。
ただし、不特定多数の人に継続して売買取引を行えば業として行っているものとみなされ、その場合、たとえ個人であっても宅建業の免許が必要になり、宅建業の免許を取得すれば宅地建物取引業法に則って取引を行う必要があります。
トラブルになる可能性があるので要注意
個人間売買は当事者間だけで行うので「簡単に売買できる」と考える人も多いかもしれません。
確かにお互いが納得すれば煩わしい手続きをなくして簡潔に売買を行うことは可能ですが、その分後々トラブルになる可能性も大きいので十分な注意が必要になります。
例えば、代表的なトラブルとして契約不適合責任があげられます。
契約不適合責任とは、引き渡した不動産が、種類、品質、数量に関して契約の内容に適合しない場合に、売主はその責任を負わなければならないというものです。
そのため、個人間売買であっても不動産の状態などを詳細に説明して契約書に細かく明記しないと、売主は売却後に様々な形で契約不適合責任を追及されるリスクがあります。
買主にとっても購入後に知らされていない瑕疵を発見したり、欠陥住宅を買ってしまうなどのリスクがあるので、プロの不動産会社が仲介に入っている取引に比べると、個人間での売買は後からトラブルになるリスクを抱えている取引だと言えます。
不動産の個人売買のメリット
不動産を個人間で売買することには次の2つのメリットがあります。
金銭的にコストを抑えることができるという点、売買価格や引き渡しのタイミングなどを柔軟に設定することができる点が大きなメリットです。
個人間売買の2つのメリットについて詳しく解説していきます。
仲介手数料を節約できる
個人間売買のメリットは仲介手数料を節約することができるという点です。
不動産会社の仲介で売買取引を行うと、不動産会社に対して仲介手数料を支払う必要があります。
ですが、個人間の取引であれば不動産会社を通さないので仲介手数料は発生しません。
仲介手数料の上限額は法律によって次のように決められており、売買価格が高くなればなるほど大きな負担となります。
売買取引価格 | 仲介手数料 |
---|---|
200万円以下 | 取引物件価格(税抜)×5%+消費税 |
200万円超~400万円以下 | 取引物件価格(税抜)×4%+2万円+消費税 |
400万円超 | 取引物件価格(税抜)×3%+6万円+消費税 |
例えば、不動産会社の仲介によって3,000万円の家を売却もしくは購入する場合、仲介手数料は96万円もの大金となってしまいます。
不動産会社を通さずに売買を行えば、仲介手数料分をまるまる節約することができるのは大きなメリットでしょう。
柔軟な取引条件で売買できる
個人間売買では、売買価格や引き渡し時期などの条件は全て当人同士で話し合った上で決定することができます。
例えば、売主が「新居が来年の4月に完成するから、それまで引き渡しを待ってほしい」という希望がある場合、その条件を買主さえ了承すれば、売主の希望通りに引き渡すことができます。
また、売買価格においても、売り手と買い手の双方が納得できる形であればいくらに設定しても取引上問題はありません。
仲介の不動産会社がいる場合、不動産売買のプロである不動産会社が主体となって主な取引条件を決めていきます。
そのため、売主や買主の意見が通らないことも珍しくありません。
しかし、個人間売買であれば当事者同士で自由に取引条件を決めることができるので「当事者の意見が通りやすい」という点は大きなメリットです。
不動産の個人売買のデメリット
金銭面や条件の柔軟性において個人間売買には確かにメリットがありますが、デメリットも非常に大きいので注意が必要です。
デメリットが多数存在するため、取引相手がすでに決まっていて、かつその相手がよほど信頼できる人でない限りあまり個人間売買はおすすめできません。
不動産の個人間売買の4つのデメリットについてもしっかりと理解しておきましょう。
取引相手を見つけにくい
当然ですが、個人間売買では売主または買主が自ら不動産売買の取引相手を見つけなければなりません。
売主または買主が自ら不動産売買の取引相手を見つけるために考えられる方法として次の3つをあげることができます。
- 親戚に売却する
- 友人・知人の中で取引相手を探す
- インターネット上のサイトを利用する
親戚に売却するという方法は、その親戚がタイミング良く不動産を買いたいという意思がある場合に限られるのであまり現実的ではないでしょう。
友人、知人の中で取引相手を探す方法についても相手方がお互いに不動産を売りたい・買いたいという意思がないと取引できません。
また、現在ではインターネット上で個人売買の掲示板サイトなどが存在するので、そのようなサイトから取引相手を見つける方法もありますが、そう簡単には取引相手を見つける事はできないでしょう。
サイト上で取引相手が見つかったとしても、見ず知らずの他人と個人間売買をすることには大きなトラブルのリスクが伴う可能性が高いため、あまりおすすめできません。
はじめから取引相手が決まっている場合は良いですが、いちから個人で取引相手を探すことは困難だと考えたほうがよいでしょう。
トラブルのリスクが高い
個人間売買は仲介での不動産取引に比べ、トラブルのリスクが高いです。
先述した通り、売主は契約不適合責任を負わなければならないため、万が一不動産に契約書に記載のない不具合などが見つかった場合には責任を果たすために何らかの対処をする必要があります。
また、買主にとっても不動産の購入後、知らされていない不具合や瑕疵が発見されるなどのトラブルに遭う可能性があります。
仲介の不動産会社がたくさんの書類を作成し、時間をかけて説明を尽くすのは、売買取引後にそのようなトラブルが起こらないようにするためです。
また、契約不適合責任が発生しても不動産会社が間に入っていれば解決するよう不動産会社がサポートをしてくれますが、個人間取引であれば当事者間で解決していかなければなりません。
個人間売買では不動産取引のプロである不動産会社がそばにいてくれるわけではないので、トラブルのリスクが高いことを覚えておきましょう。
時間と労力がかかる
個人間売買と言えども、基本的には適正価格の調査や契約書の作成、司法書士への連絡などは不動産会社が仲介する場合と同じように行う必要があります。
経験や知識がそれほどない一般人が、適正価格の調査や不備がないように契約書類を作成することにはそれなりに労力が必要になりますし、時間もかかります。
個人間で売買することによって仲介手数料は不要になるものの、トラブルなく取引するための労力と時間は結構な負担になると覚悟しておいた方がよいでしょう。
融資が受けられない可能性がある
個人間売買では融資を受けることができない可能性があります。
融資を利用する際に金融機関に対して売買契約書などを提出する必要があるのですが、個人の当人同士が作成した書類を有効な書類とみなしてくれる可能性が低いからです。
また、個人間売買は売買後に隠れた不具合などが発覚してトラブルになる可能性が高い取引です。
金融機関とすれば担保物件に契約不適合責任が生じた場合、融資金の回収に大きく悪影響する可能性があるので、融資をするのはリスクが高いと言えます。
また、売買後に見つかった不具合が重大なものであれば、担保としての価値を大きく損ねてしまうリスクもあり、回収にも悪影響を及ぼしかねません。
このような理由から、個人間売買での融資は金融機関にとってもリスクが大きいため、融資が受けられない可能性が高いと言えます。
不動産の個人間売買の流れ
では、実際に個人間売買はどのように行うのでしょうか?
トラブルなく売買を行おうと思ったら、個人間売買の流れは不動産会社が仲介するケースとそれほど大きくは変わりません。
基本的な流れは次の通りです。
それぞれのタイミングで注意すべきポイントなどについて詳しく解説していきます。
周辺相場をチェックし取引価格を決める
まずは周辺相場をチェックして取引価格を決めましょう。
不動産のポータルサイトなどから売値を参考にする方法もありますが、基本的な方法は次の2つです。
- 固定資産税評価額から実勢価格を求める
- 取引事例の中から比較して相場価格を求める
毎年郵送で届く固定資産税納税通知書からある程度の実勢価格を求めることができます。
固定資産税評価額は実勢価格の7割程度だと言われているので、「固定資産税評価額÷0.7」でおおよその実勢価格を知ることができます。
例えば、固定資産税評価額が1,000万円であれば、1,430万円程度が売価だと想定することが可能です。
また、もう一つの価格の求め方として取引事例比較法という方法もあります。
取引事例比較法とは、不動産の条件が近い取引事例の中から比較をし、相場価格を求める方法です。
国土交通省が運営する「不動産取引価格情報検索」というWEBサイトから周辺の不動産の取引事例を検索することが可能です。
このようなサイトから類似した物件の取引事例を3つほど調べて、次のように平均単価を求めます。
売買価格 | 面積 | ㎡単価 | |
不動産A | 1,000万円 | 100㎡ | 10万円 |
不動産B | 2,500万円 | 200㎡ | 12.5万円 |
不動産C | 1,800万円 | 120㎡ | 15万円 |
平均単価 | 12.5万円 |
例えば、売却しようとしている不動産の面積が150㎡であれば、12.5万円×150㎡=1,875万円が取引事例から求めることができる相場価格になります。
いずれかの方法で適正な売価を求めましょう。
なお、取引価格が適正でない場合、税務署が「みなし贈与」と判断し、贈与税が発生する可能性があります。
このようなトラブルを避けるためにも適正な取引価格を設定しましょう。
必要書類を準備する
取引価格を決めたら、不動産売買に必要な書類を用意しましょう。
必要書類は不動産の種類や契約内容によって多少異なりますが、基本的には以下の書類が必要になります。
実印、印鑑証明書、本人確認書類は売主・買主共に必要なものです。
売却する物件が住宅であれば、売主は家の状態や特徴が分かるような住宅のパンフレットなども用意しておくと良いでしょう。
現地確認や問い合わせに対応する
売主はWEBサイトなどで売りに出したら、現地確認や内覧を希望する人への対応を行います。
少しでも物件の状態をよく見せるために室内などを綺麗にしておきましょう。
また、内覧の際に、居住している人しか分からないような住宅の魅力や周辺環境の利便性などをアピールすることで購入検討者の購買意欲を高めることができます。
購入検討者は物件について様々な質問をするので、物件について出来るだけ詳細に答えることができるようにしておきましょう。
仲介の不動産会社がいる場合、詳細な情報を提供するために不動産会社が物件状況等報告書や設備表などを用意しますが、個人間売買の場合、自分でそのような書類を作成する必要はありませんが、伝えた方が良い情報などはメモをしてまとめておくと良いでしょう。
買い手と価格交渉をする
基本的に、不動産売買の価格交渉は必ず行われるものと思っておいた方が良いでしょう。
もともと販売価格が相場以下であることが明らかな場合などは別ですが、購入希望者は値下げ交渉をするものです。
売出価格から値下げされて売買が成立することが一般的ですので、最初の売出価格は本当の売却希望額よりも少し高く設定し、値下げに備えておくことが基本です。
また「この価格までしか値下げはできない」というボーダーラインをしっかりと決めておきましょう。
契約書類を作成する
価格交渉がまとまり売却価格が決まったら、契約書類を作成して契約の手続きを進めます。
個人間売買と言えども契約書は必ず作成し、後々トラブルになることを防ぎましょう。
契約書には次のような内容を記載します。
インターネットで『不動産売買 契約書 雛形』などと検索すると、上記の条件を満たした契約書の雛形を入手することができるので、ダウンロードして使用すると便利です。
引き渡し・所有権移転登記の手続きをする
売買契約を締結した後は、不動産の引き渡しをします。
不動産の引き渡しでは、売主が売買代金を受け取るのと同時に、売主から買主へ所有権の移転登記を行います。
所有権移転登記は当人同士で行うこともできますが、とても大事な手続きなので司法書士に依頼することをおすすめします。
また、所有権移転登記の際に登録免許税という税金や司法書士への報酬が発生しますが、基本的にこれらの費用は買主が負担します。
当日になってトラブルにならないよう、所有権移転登記を行う際の取り決めなども契約時にしっかりとお互いに確認しておくようにしましょう。
不動産の個人間売買の3つの注意点
不動産の個人間売買は金銭的なメリットがある方法ですが、トラブルが多いのも事実です。
大きなトラブルになることがないよう、次の3つの注意点だけは留意して取引を進めてください。
不動産の個人間売買の3つの注意点について詳しく解説していきます。
価格はしっかりとリサーチする
不動産の売却価格については事前にしっかりとリサーチしておくようにしてください。
適正な価格でないと税務署から贈与と判断される可能性があり、そうすると買主が贈与税を支払わなれければならなくなってしまいます。
個人間売買は取引価格を自由に決めることができるメリットがありますが、市場価格よりも著しく安い値段の場合は「みなし贈与」と判断される可能性もあります。
過去の判例では、市場価格よりも8割以上安くなると「著しく安い価格」と判断されているので、取引価格は市場価格の8割以内とするようにしてください。
また、あまりにも高い価格で売却した場合も、買主との間で後々トラブルになる可能性があります。
適正価格で売却するのがベストですので、しっかりとリサーチした上で取引価格を決めましょう。
トラブルにならないよう契約書類はしっかり作成する
個人間売買であっても、売主は「契約不適合責任」を負います。
契約不適合責任とは、契約内容と異なる点があった際に売主が負う責任のことをいいます。
そのため、契約不適合責任では「契約書に記載されているかどうか」という点が非常に重要になります。
契約不適合責任に問われることがないよう、契約書には物件に関する詳細をしっかりと明記しておきましょう。
契約書を詳細に作成しお互いに確認することで、売主と買主間のトラブルを避けることに繋がります。
登記の手続きは司法書士へ依頼する
不動産を売却すると、登記上の所有権を売主から買主の名義へと変更しなければなりません。
所有権の移転登記は一般の人が行うこともできますが、もし手続きに不備があると引き渡し日に所有権移転登記ができない可能性があり、もしそうなった場合は大きなトラブルになってしまいます。
所有権移転登記はとても大切な手続きなので、トラブルを避けるためには司法書士へ依頼しましょう。
まとめ
不動産は個人間で売買することが可能です。
不動産会社を通さないことによって仲介手数料を節約することができ、取引条件なども当人同士で自由に設定することができます。
しかし、個人間売買は売却後に大きなトラブルになるリスクがあるので要注意です。
個人間売買であっても必ず契約書を作成し、トラブルを未然に防ぐようにしましょう。
なお、仲介の不動産会社がいる取引と比べ、当人同士しかいない個人間売買はどうしてもトラブルを招きやすいため、基本的に個人間売買は信頼できる親戚や友人のみと行い、他人と売買する場合には不動産会社の仲介を入れて取引することをおすすめします。