不動産会社に不動産の売却を依頼するときは、売主と不動産会社との間で「媒介契約」を結ぶ必要があります。
媒介契約とは、不動産会社が売買の仲介を引き受けるにあたって、どのような売買活動を行うのかや、売買成立に至った際の仲介手数料の額などを予め明確にし、売主と不動産会社の間でトラブルを防ぐ目的で交わす契約になります。また、媒介契約を結ぶことによって、売主は正式に売買の仲介をその不動産会社に依頼したこととなり、その不動産会社の仲介によって晴れて売却が成立した際には仲介手数料を支払う義務が生じます。
この媒介契約には、「一般媒介」、「専任媒介」、「専属専任媒介」の3種類が存在し、売主は自由に選択することが可能です。
それぞれの媒介契約の特徴をよく理解し、適切な媒介契約を結ぶことで不動産売却を成功に導くことができるでしょう。
この記事では、3種類の媒介契約のメリット・デメリットや適切な媒介契約の選び方を解説します。
これから不動産の売却を検討していて、媒介契約についてよく分からないという方はぜひご覧ください。
不動産の媒介契約とは
不動産の媒介契約とは、不動産の売却や購入の仲介を依頼する不動産会社と、事前に売買活動の内容や売買活動にあたっての条件などについて取り決める契約のことです。
不動産会社に不動産売却の仲介を依頼する際には必ず締結する契約になります。
では、媒介契約では具体的にどのようなことを取り決めるのでしょうか?
媒介契約で確認する6つのこと
媒介契約は国土交通省が定めている「標準媒介契約約款」という雛形をもとに策定されていることが一般的です。
「標準媒介契約約款」では次の6つの内容を確認しています。
ここで大きなポイントとなるのが「媒介契約の種類」です。なぜかというと、締結する媒介契約の種類によって売主の制限や不動産会社の売却活動中の義務などが異なるからです。
以下から、媒介契約で確認する6つの内容について詳しく解説していきます。
媒介契約の種類
媒介契約には次の3つの種類があります。
この3種類のうち、どの媒介契約を締結するのか媒介契約書に明記します。
指定流通機構への登録
不動産会社は自社の顧客以外にも売却情報を共有するために「指定流通機構(レインズ)」というネットワークに加入しています。
この指定流通機構に売却する物件情報を登録するかどうかについても媒介契約書に明記します。
一般媒介契約であれば「指定流通機構(レインズ)」への登録は任意です。
しかし、専任媒介契約と専属専任媒介契約では「指定流通機構(レインズ)」への登録は義務化されており、媒介契約の締結日の翌日から専任媒介契約の場合は7営業日以内、専属専任媒介契約の場合は5営業日以内に登録しなければなりません。
売主への業務報告
売主への業務報告の頻度や手段についても媒介契約書に明記しなければなりません。
一般媒介契約の場合は売主への報告義務はありませんが、専任媒介契約と専属専任媒介契約では文書または電子メールによって業務報告することが義務付けられています。
業務報告の頻度は、専任媒介契約と専属専任媒介契約で次のように異なります。
事前に報告頻度についても取り決めを行い、媒介契約書に明記しなければなりません。
契約の期間
不動産媒介契約の期間について、専任媒介契約と専属専任媒介契約では3ヶ月以内と定められています。
また、一般媒介契約については法律上の定めはありませんが、3ヶ月以内で設定することが一般的です。
3ヶ月以内の期間を設定し、更新についても事前に取り決めをしておきます。
報酬
不動産会社に支払う報酬についても事前に取り決めを行います。
不動産の売却が成立すると不動産会社に対して仲介手数料の支払いが発生するので、この仲介手数料の額と、支払いのタイミングについてあらかじめ取り決めます。
一般的に支払うタイミングは、売買契約時に仲介手数料の半分の額を支払い、物件引渡し時に残りの半分を支払います。物件引渡し時に仲介手数料を支払う場合もあります。
ここで注意が必要なのは、媒介契約を締結したら仲介手数料を支払うのではなく、売却が無事に成立したら仲介手数料を支払います。媒介契約を締結しても売却が成立しなければ仲介手数料は発生しません。
また、買主が住宅ローンの審査に通過できなかったときには、不動産会社が売主から受領した仲介手数料の全額を返還する「ローン特約」という特約をつけることができますが、この特約についても事前に取り決めておきます。
違約金や費用償還の請求
売主が契約違反をした場合には、不動産会社は仲介手数料相当額を売主に請求することができます。
具体的に違約金が請求されるケースは次の2つです。
専任媒介契約や専属専任媒介契約を締結している場合において、異なる方法で不動産を売却すると違約金が発生するリスクがあります。
専任媒介契約や専属専任媒介契約を締結したら契約期間内は当該不動産会社だけに売却を任せた方がよいでしょう。
また、違約金が請求されると、不動産の売却活動にかかった次のような経費の償還も請求される可能性があります。
- 現地調査費用:現地までの交通費や不動産の写真代など
- 権利関係調査費用:法務局までの交通費や登記簿謄本代など
- 販売活動費用:不動産販売に関する広告費、通信費、現地案内の交通費など
- 契約交渉費用:顧客との待ち合わせ場所までの交通費やお茶代
契約違反を犯すと違約金だけでなく、上記のような経費まで請求される可能性があります。
このように、契約違反となった際の違約金や経費の償還についての取り決めも媒介契約書に記載されるので、事前にしっかりと内容を確認し、契約違反にならないように気を付けましょう。
媒介契約の3つの種類
媒介契約には次の3つの種類があります。
- 一般媒介契約
- 専任媒介契約
- 専属専任媒介契約
それぞれの媒介契約によって、以下のような違いがあります。
複数社との契約 | 売主が自ら買い手を探す行為 | レインズへの登録義務 | 売主への報告義務 | |
一般媒介契約 | 可 | 可 | なし | なし |
専任媒介契約 | 不可 | 可 | 媒介契約を締結した翌日から7日以内 | 14日に1回以上 |
専属専任媒介契約 | 不可 | 不可 | 媒介契約を締結した翌日から5日以内 | 7日に1回以上 |
このように、媒介契約によって売主の制限や不動産会社の責任の範囲・報告義務などが異なるので、媒介契約を締結する前にそれぞれの特徴について理解しておくことは非常に重要です。
媒介契約の3つの種類の特徴と、それぞれのメリット・デメリットについて詳しく解説していきます。
一般媒介契約
一般媒介契約とは、複数の不動産会社に売買の仲介を依頼することができる契約になります。
さらに、売主が自ら買い手を探すこともできます。
3種類ある媒介契約のなかで一番制限がなく、広い範囲から買い手を探すことができる一般媒介契約ですが、不動産会社から売主への報告義務などもありません。
一般媒介契約のメリットとデメリットを詳しく見ていきましょう。
一般媒介契約のメリット
一般媒介契約のメリットは次の通りです。
自由度の高い契約である一般媒介契約は、複数の不動産会社に買い手を探してもらうことができるので不動産会社同士を競わせることで自分にとって最良の条件で売却することが可能です。
また、自分で買い手を探しても契約違反になりません。
「1つの不動産会社だけに任せるのは不安」という際には向いている契約です。
一般媒介契約のデメリット
一方、一般媒介契約にはデメリットもあります。
不動産会社は指定流通機構(レインズ)への登録義務がないので、一般媒介契約を締結した不動産会社は自社の顧客の中だけで買主を探す可能性が高くなります。そうすると買主を探す範囲が狭くなり、買主を見つけるまで時間がかかってしまうかもしれません。
また、売主への報告義務もないのでどこまで本気で買い手を探してくれるのかも不透明です。
さらに注意が必要なのは、一般媒介契約だからといって数多くの不動産会社と契約を結んでしまうと、不動産会社にとっては自社で売買契約できる可能性が低くなってしまうので、媒介契約数が多ければ多いほど、売却活動に力を入れなくなってしまう恐れがあります。
一般媒介契約では何社とでも契約を結ぶ事は可能ですが、あまりに多くの不動産会社と契約を結ぶことはこのようなデメリットを生んでしまう可能性があるので注意しましょう。
専任媒介契約
専任媒介契約とは、不動産会社1社のみに依頼できる契約です。専任媒介契約を結んだら他の不動産会社と媒介契約を締結することはできません。
上記が専任媒介契約の特徴です。
最大の特徴は、自分で買い手を見つけた場合は契約違反にならないという点です。
専任媒介契約のメリットとデメリットについて詳しく解説していきます。
専任媒介契約のメリット
専任媒介契約のメリットは次の3つです。
指定流通機構(レインズ)に登録する義務があるので、他の不動産会社のネットワークも含めた幅広い顧客の中から不動産の買い手を探すことができます。
さらに、不動産会社は14日に1回以上の報告義務を負っているので、真剣に買い手を探すことが期待できます。
専任媒介契約のデメリット
専任媒介契約には次のデメリットがあります。
専属専任媒介契約は7日に1回以上の頻度で販売状況の報告義務を負っていることに対して、専任媒介契約は14日に1回以上と、頻度の義務が遅くなっています。
また、専属専任媒介契約は媒介契約を締結した翌日から5日以内に指定流通機構(レインズ)への登録義務があることから、専任媒介契約の方が7日以内と、若干登録義務が遅くなります。
専属専任媒介契約
専属専任媒介契約も1社のみとしか契約できない媒介契約です。
専任媒介契約と異なるのは次の3点です。
その名の通り、1つの不動産会社が専属で不動産売却の媒介を行うのが最大の特徴です。
専属専任媒介契約のメリット・デメリットについて詳しく見ていきましょう。
専属専任媒介契約のメリット
専属専任媒介契約のメリットは次の2つです。
専属専任媒介契約は、契約した不動産会社を必ず通さなければ不動産を売却することができない契約です。
そのため、不動産会社からすれば媒介契約期間内に売却できれば確実に仲介手数料が入るので、かなり積極的に買い手を探すことが期待できます。
また、売主への活動報告頻度が7日に1回以上ですので、詳細に販売状況を確認でき、不動産会社も何も進展がない状態では報告ができないので、やはり非常に積極的に売却先を探すことが期待できます。
「この不動産会社に任せておけば大丈夫」という信頼できる会社があるのであれば、専属専任媒介契約を締結して、不動産の売却をお任せしておくとよいでしょう。
専属専任媒介契約のデメリット
専属専任媒介契約のデメリットは次の2点です。
他の不動産会社とは契約できない1社独占の契約ですので、万が一能力の低い会社と契約を締結してしまったら不動産が売れない可能性があります。
また、他の会社から問い合わせがあっても「成約になった」などと言って、他社の顧客へ販売しようとしない囲い込みのリスクもあります。
囲い込みとは、自社の直接の買主にしか物件を紹介せず、仲介手数料を売り手からも買い手からも取得することを目的とする行為のことです。
囲い込みは、売主にとってみれば買主の選択範囲が狭くなり、最良の条件で売却できる可能性を失うことになります。
専属専任媒介契約は1社独占の契約だからこそ、悪徳業者に捕まると囲い込みのリスクが高くなります。
専属専任媒介契約を締結する業者は慎重に選定しましょう。
媒介契約の選び方
媒介契約には3つの種類がありますが、実際に不動産会社と契約する際にはどの媒介契約を選択すべきなのでしょうか?
媒介契約の選び方について解説していきます。
複数社に依頼するなら一般媒介契約
1社だけではなく複数社に依頼したいのであれば、一般媒介契約を選択しましょう。
専任媒介契約も専属専任媒介契約も他の不動産会社とは契約できない媒介契約です。
複数の業者を競わせて少しでもよい条件で不動産を売却したいという場合には、一般媒介契約の方がよいでしょう。
ただし、一般媒介契約で不動産会社同士が競うのは、売却しやすい好条件の不動産のみです。
売りにくい立地の不動産や古い建物などは、複数の不動産会社へ依頼しても競わせることは難しいでしょう。
不動産会社に全力で買主を探してほしいなら専任か専属専任
不動産会社に全力で買主を探して欲しいのであれば、専任か専属専任媒介契約を締結しましょう。
専任も専属専任も1社としか契約できないため、不動産会社にとっては売却することができれば自社の収入になることが確定しています。
そのため、一般媒介契約よりも不動産会社は真剣になる傾向があります。
信頼できる業者が見つかれば専任か専属専任媒介契約を締結し、売却を任せてみるとよいでしょう。
媒介契約は購入する時にも締結する
媒介契約は不動産の購入を希望する際にも締結できます。
購入の媒介契約では、不動産会社に次のような条件を伝えて契約書に明記します。
- 希望する金額
- 希望する間取り
- 希望する立地
- 希望する築年数
これらの条件をあらかじめ伝え、媒介契約を締結することによって不動産会社が条件に叶った不動産を探し、成約になった時に仲介手数料が発生する仕組みです。
なお、購入の場合、買主にとっては「1社としか契約できない」という条件は不利にしかならないので、不動産を購入する際には一般媒介契約が締結されます。
まとめ
不動産の媒介契約には、一般媒介・専任媒介・専属専任媒介の3種類があります。
この3種類のうち、一般媒介は売主、不動産会社双方にとって一番制限が緩い契約です。
一般媒介は複数社と契約を結ぶことができるので、一番良い条件で買主を見つけてくれた業者と売買契約を締結することができます。ただし、あまりに多くの不動産会社と媒介契約を結んでしまうと不動産会社のやる気が損なわれてしまう可能性があるので注意しましょう。
専任・専属専任媒介は不動産会社1社とのみ結ぶ契約のため、不動産会社は売却活動に力を入れる可能性が非常に高いでしょう。ただし、不動産会社の選択を誤ってしまうと媒介契約期間中に買主を見つけることができないまま時間を無駄にしてしまう可能性があるので、不動産会社選びは慎重に行う必要があります。
それぞれの媒介契約の特徴やメリット・デメリットをよく理解し、売主にとって一番最適な媒介契約を締結しましょう。