住宅ローンの返済が苦しくなって支払いを滞納するようになった時に、自宅を売却して住宅ローンの返済に充てる方法として任意売却と競売という2つの方法があります。
いずれも自宅を売却して借入金の返済をするという点は同じですが、それぞれの特徴は大きく異なります。
任意売却は銀行などの債権者から同意を得て売却を行うものですが、競売は裁判所の権力のもと強制的に不動産売却を行います。
任意売却ができる期間は決められているため、任意売却可能な期間を過ぎてしまうと競売に至ってしまいます。
競売よりも任意売却によって売却をした方があらゆるメリットがあるため、競売に至ってしまう前に任意売却を選択しましょう。
この記事では任意売却と競売の違いと、すぐに任意売却を選択した方がよい人について詳しく解説していきます。
「住宅ローンの返済が苦しい」「仕事を続けることができなくなった」などの悩みを抱えている方はぜひご覧ください。
競売とは?競売のメリット・デメリット
競売とは、借入金の返済ができなくなった時、担保となっている自宅などの不動産を債権者が裁判所の許可を得て強制的に売却し、売却代金で借入金を返済することです。
競売は債権者が裁判所へ申し立てを行い、裁判所が許可をした段階で開始されるので、債務者の意思とは無関係に行われます。
競売は借金を返済できない人が債権者の申し立てによって強制的に自宅を売却されてしまう方法なのでデメリットの方が大きいですが、メリットも存在します。
競売のメリットとデメリットについて詳しく見ていきましょう。
競売のメリット
あまりメリットのないように考えられている競売ですが、次の2つは任意売却と比較した場合のメリットだということができます。
競売に至るまではある程度の時間がかかるため、任意売却で売却する場合よりも長く自宅に住み続けることができます。また、任意売却に比べると、競売の方がより確実に売却できるのはメリットです。
競売の2つのメリットについて詳しく解説していきます。
任意売却よりも長く住むことができる
競売は手続きが非常に煩雑で、次のようなプロセスを経なければ自宅を売却することはできません。
競売の申し立てから落札者が決定するまでは半年程度の時間がかかります。
また、落札者が一度の競売で決まらない場合にはさらに時間がかかるので、競売の申し立てを金融機関が行っても、そこから引渡しまでかなり長い時間がかかります。
不動産の引渡しを行うまでは自宅に住み続けることができるので、住宅ローンを延滞している時から考えれば数年程度の長い期間手続きがかかることもあります。
通常の売買に近い形で自宅を売却する任意売却と比較して、競売の方が長く自宅に居住をし続けられる点は大きなメリットです。
任意売却よりもより確実に売却できる
競売は裁判所の許可を得て強制的に不動産を売却する方法です。
任意売却による売却では、一般的な不動産売却と同様に市場価格で売却することが可能ですが、競売によって物件が売りに出される場合は、市場価格よりも評価額が低く設定されます。
そのため、競売物件は購入前に内見することができないなどのリスクはあるものの、市場価格よりもかなりの割安で不動産を購入することができるので、任意売却によって売りに出すよりも競売の方が売却できる可能性が高いと言えます。
競売のデメリット
競売には長く住み続けることができるという点と、より確実に売却できるという2つのメリットがあります。
しかし、反対に言えば任意売却と比較してその2つしかメリットはありません。
むしろ競売はデメリットの方が圧倒的に多く、さらには任意売却のデメリットよりも重いと言えるでしょう。
競売のデメリットは次の4つです。
競売の4つのデメリットを理解して、できる限り競売に至ることを避けるようにしましょう。
売却価格が安くなる
競売は任意売却と比較して売却価格が非常に安くなります。
競売の際の不動産評価額は通常の評価額よりも2〜3割程度減価された金額です。
さらに売買基準価格は評価額の8割になります。
つまり、競売の売買基準価格は市場価格の6割程度になることが一般的です。
市場価格で売却することができる任意売却と比べて、競売は非常に安い売価になってしまうという点は覚悟した方がよいでしょう。
売却価格の高い任意売却で自宅を売却した方が間違いなくメリットがあります。
自己破産に至ることが多い
競売での売却価格は市場価格よりもかなり安くなるので、競売代金を住宅ローンの返済に充てても多くの残債が残ってしまうことがあります。
競売を行った後も住宅ローンの残債があれば返済をしなければならないので、残りの借入金を返済しきれずに自己破産に至ってしまう可能性があります。
任意売却の方が高い値段で売却できるので自己破産に至る可能性は低いですが、競売では最終的に自己破産をしなければならない場合が多いのはデメリットです。
近隣住民にばれやすい
競売になると「ローンを長期間延滞して競売になった」ということが近隣住民にばれやすいのが大きなデメリットです。
競売の申し立てが許可されると、裁判所の職員が対象物件を調査しにきます。
そして、調査が終わると裁判所が競売情報を公開します。
競売情報は誰でも閲覧することが可能で、さらに入札希望者は物件を調査しに現地まで訪れることもあるので、近隣住民などの第三者に競売になったということを知られる可能性があります。
他方、任意売却であれば不動産会社が公開する売却情報などから売りに出ていることを知られる可能性はあるものの、「ローンが払えなくなったから売却することになった」という経緯までは分かりません。
諸条件を自分で決められない
競売が開始されるタイミングは債権者が決定します。
債権者が裁判所へ申し立てると競売の許可が下り、債務者の意思とは無関係に債権者のタイミングで自宅が売りに出されます。
また、自宅の引き渡しのタイミングは落札されて売却代金が支払われた時なので、自宅の引き渡し日についても債務者が意見を述べることはできません。
自宅という生活の基盤になる財産の売却や引き渡しのタイミングを自分で決めることができないのは、非常に大きなデメリットです。
任意売却であれば、売却の際の諸条件や引き渡しのタイミングについて自分の意思を聞いてもらうことができます。
任意売却とは?任意売却のメリット・デメリット
任意売却とは、住宅ローンの返済が困難になった際に、借入先(債権者)の合意をもらって市場で売却する方法です。
競売は債権者発で行われるものであるのに対して、任意売却は債務者発で行う売却方法ということになります。
任意売却では通常の不動産売買と同様に市場で売却するため、市場価格で売却することができるのが特徴です。
結論を言えば競売と比較すると任意売却の方が圧倒的にメリットが多いので、競売に至る前に任意売却によって売却するのがよいでしょう。
任意売却のメリットとデメリットについて詳しく解説していきます。
任意売却のメリット
任意売却のメリットは次の6点です。
任意売却の方が債務者主導で行うことができ、金銭的にも競売よりメリットがあります。
競売に至ってしまう前に任意売却を選択した方が間違いなくメリットがあるでしょう。
任意売却の6つのメリットについて詳しく解説していきます。
市場価格で売却できる
任意売却を行うには債権者の許可を得る必要がありますが、売却方法としては通常の売却方法と変わりありません。
一般市場で買い手を探し、通常の不動産売買と同じように売却することができます。
市場価格の6割程度の売価になる競売よりも、市場価格で売却できる任意売却の方が圧倒的にメリットがあります。
自己破産を免れることができる
任意売却の方が競売よりも高い値段で売却できます。
そのため、残債の金額は競売で売却した場合よりも少なくなるのが一般的です。
また、任意売却後の残債の返済は債権者との話し合いによって分割返済や一時免除に応じてくれることがあるので、任意売却後に自己破産に至ることはそれほどありません。
競売は売却代金が低いため借入金を払いきれずに自己破産に至る可能性が高いことと比較すると、この点もメリットだと言えるでしょう。
引っ越し代を債権者が負担してくれることがある
任意売却は引越し代金を債権者が負担してくれることがあります。
任意売却後は自宅を退去しなければならないことを鑑みて、法律では最高30万円まで債権者が債務者に対して引越し代金を負担することが認められています。
これは義務ではなく、債権者との交渉によって結果も異なりますが、不動産会社や弁護士などが交渉することによって金融機関が引越し代金を負担してくれる可能性はあります。
競売では、ほぼ確実に退去費用などを負担してもらえることはありません。
この点からも競売に至る前に任意売却をすべき大きな理由の1つです。
プライバシーが守られる
任意売却によって売却中であることは近隣住民に知られることはありません。
任意売却は通常の不動産売却と同じような流れで手続きされます。
そのため、不動産の販売情報サイトなどに物件情報が掲載される可能性はありますが、住宅ローンの返済を滞納しているから売りに出しているということまでは分かりません。
競売であれば調査員の現地調査や公開される競売情報から、「この物件は競売にかけられている」と近隣住民などに知られてしまう可能性があります。
任意売却では、周りからみると一般的な不動産売却と区別がつかないのでプライバシーが守られるということも大きなメリットでしょう。
諸条件を自分で決められる
任意売却は通常の不動産売買と同じように買い手との話し合いによって、売買価格や引き渡し時期などの諸条件を自分で決めることができます。
競売であれば売却や引き渡しのタイミングは債権者に委ねられているので債務者の意思は聞いてもらうことができませんが、任意売却では諸条件を自分の意思で決める事ができるのはメリットでしょう。
売却後に住み続けることもできる
任意売却であれば「リースバック」という方法によって、自宅を売却したあとも自宅に住み続けることができます。
リースバックとは、リースバックを取り扱う業者に対して自宅を売却し、売却と同時にリースバック業者と賃貸借契約を結ぶことによって、毎月賃料を支払いながら自宅に住み続けることができるという仕組みです。
また、リースバックは契約によっては自宅を買い戻すこともできるので、数年後には貯金ができる見込みがあるような場合には将来的に自宅を取り戻す計画を立てることも可能です。
競売によって自宅を売却した場合住み続けることは不可能なので、この点でも任意売却の方が圧倒的に優位性があります。
任意売却のデメリット
任意売却は競売と比較して非常に多くのメリットがありますが、次の3つの点には注意する必要があります。
通常の不動産売却と同様、必ずしも買主が見つかる保証はありません。
また、任意売却は抵当権者全員の同意が必要になる手続きですので、思うように手続きが進まない可能性もあります。
さらに、競売に至る前であっても、信用情報に傷がついてしまうということも覚えておきましょう。
任意売却の3つのデメリットについて詳しく解説していきます。
自宅が売却できないこともある
任意売却の場合、通常の不動産売買とそれほど手続きは変わりません。
つまり、通常の不動産売買と同じように、売りに出したからといって必ずしも買い手が見つかるとは限らないので注意が必要です。
物件が好立地などの売りやすい条件が整っている不動産であれば売却できる可能性は高いですが、例えば地方の古い物件などは任意売却で買い手を探しても、買い手が見つかる可能性は低いと考えた方がよいでしょう。
物件によっては競売よりも売却できる可能性が低くなるのはデメリットです。
抵当権者全員の同意が必要
任意売却は、その不動産に抵当権を設定している債権者全員の同意が必要です。
そのため、抵当権を設定している債権者のうち1人でも任意売却に反対すると、任意売却を行うことは不可能になります。
住宅ローンを借りている金融機関しか抵当権を設定していないのであれば、金融機関にとっては競売になるよりも任意売却で売却した方が融資残高の多くを回収できるので、任意売却に賛成する可能性は大いにあります。
しかし、1つの不動産に2番抵当や3番抵当などの後順位がついている場合には、任意売却によって売却しても2番目3番目の抵当権者が借入金を回収できる可能性は非常に低くなります。
後順位の抵当権者とすれば、任意売却によって担保を失うデメリットしかないので任意売却に反対する可能性があります。
抵当権者全員の賛成がなければ任意売却はできず、抵当権が多く設定されているほど全員の債権者が賛成してくれる可能性が低くなってしまうのはデメリットです。
信用情報に傷がつく
住宅ローンの返済を延滞した場合、信用情報機関にその内容が登録されるため、信用情報に傷がついてしまいます。
一度信用情報に傷がついてしまうと、以後5年〜10年は金融事故の情報として記録されるので、その間はお金を借りることやクレジットカードを作ることが不可能になります。
ここでよくある勘違いは、任意売却をしたら信用情報に傷がつくのではなく、ローンを滞納した時点で信用情報に傷がつくので、ローンを滞納したら速やかに任意売却をして返済を行った方がよいでしょう。
任意売却と競売の比較表
任意売却と競売の違いをまとめると次のようになります。
任意売却 | 競売 | |
売却価格 | 市場価格に近い価格 | 市場価格の5割〜7割程度 |
個人情報 | 通常の売買情報として公開されるので任意売却とは思われない | 競売情報として公開される |
残債 | 売価が高いので残債は少ない | 売価が安いので多く残る |
残債の返済方法 | 交渉によって免除や減額、分割返済が認められる | 基本的には一括返済 |
売却後の居住について | リースバックなどの活用で住み続けられる | 居住できない |
引っ越し費用 | 債権者との交渉次第で最高30万円が支払われる | 基本的には支払われない |
売買の意思決定 | 債権者と交渉し債務者の意思で決定できる | 債権者が決定する |
このように、さまざまな角度から見ても競売よりも任意売却の方がメリットがあります。
あまりにも住宅ローン返済の延滞が長期化すると、金融機関は競売の申し立てを行ってしまうので、競売になる前に任意売却をした方がよいでしょう。
こんな時は任意売却を選択しよう
最終的に競売に至ってしまうリスクを考えれば、間違いなく早めに任意売却を行っておいた方が得策です。
早期に任意売却を選択しなければ債権者が競売の申し立てを行ってしまうリスクがあります。
早期に任意売却をすべき状況としては次の5つのケースが考えられます。
早期に任意売却をすべき5つの状況について詳しく解説していきます。
住宅ローンを延滞し督促されている方
住宅ローンを延滞し、すでに督促されている場合は任意売却を真剣に検討すべきです。
もちろん、一時的にお金がないだけで、正常に返済を再開できる見込みがあるのであれば任意売却をする必要はありません。
しかし、今後も返済することが不可能なのであれば督促の段階から早めに任意売却へ動いた方が得策です。
通常、延滞から1ヶ月間は電話や書面で督促が行われて、やがて内容証明郵便で催告書が届きます。
この後には、期限の利益を喪失させて一括返済を求めてくるので、期限の利益を喪失する前までには任意売却をする意思があることを伝えて競売になることを防ぎましょう。
病気で働けなくなり無収入になった方
病気で働くことができず、収入が無くなり、住宅ローン返済が難しくなった方も任意売却を検討すべきです。
任意売却は無職の方でも問題なく行うことができますが、万が一競売になってしまったら病気体であるにも関わらず住む家を失ってしまう可能性もあります。
このような最悪の事態に至ってしまう前に、任意売却で住宅ローンを返済し、早めに新居を決める方がよいでしょう。
なお、病気で働けなくなった場合には団体信用生命保険の適用になる可能性もあります。
この場合は保険金で住宅ローンが返済できるので、まずは金融機関へ団体信用生命保険の適用にならないか確認しましょう。
住宅以外の財産は残したい方
住宅以外の財産を残したい方も任意売却がおすすめです。
競売から自己破産になってしまったら全ての財産を失ってしまうことになります。
任意売却であれば手放すことになるのは自宅だけで、その他の資産は守ることができるため、住宅以外の財産を残したい場合は任意売却が有効です。
なお、住宅ローン以外の借金に苦しんでいる場合は、個人再生という手続きをすることによって住宅ローン以外の借金を精算して、住宅だけを残すことも可能です。
複数の借金に苦しんでいる場合は、どの資産を残したいのかによって取るべき行動が変わります。
住宅以外の資産を残したい方は任意売却、住宅だけは残したいという場合は個人再生というように使い分けましょう。
多くの借金を抱えて自転車操業状態の方
複数の借金を抱えて自転車操業状態の方も、任意売却によって住宅ローンを返済した方がよいでしょう。
複数の借金を抱えている人は、借金の返済を借金で行う傾向があります。
すると、借金は雪だるまのように膨らんでいくので、どこかで借金の本数を減らす必要があります。
任意売却は住宅ローンという返済金が大きいローンを減らすことができるので、多重債務者にとってはメリットがあります。
借入本数を減らす方法として個人再生という方法がありますが、個人再生で精算できるのは個人ローンだけです。
個人事業主が借りている事業資金などは個人再生では精算できないので、多くの借金を抱えている個人事業主は特に検討すべき方法だと言えるでしょう。
離婚で元の家族の自宅を手放したい方
任意売却は離婚をするときに利用される自宅の売却方法でもあります。
結婚した際に自宅を購入し、その後離婚に至った場合は自宅の処分や住宅ローンの支払いに困ってしまいます。
夫婦の共有名義で自宅を買っていても、自宅や住宅ローンを半々に分けることはできません。
また、例えば夫の名義でローンを借りていて、妻が連帯保証人になっている場合、夫が住宅ローンの支払いを怠れば妻に支払い義務が生じるので、離婚後に支払いについてトラブルになる可能性があります。
この場合、任意売却によって自宅を売却するのが最も円満に解決する方法です。
離婚してどちらも自宅には住まないという場合には任意売却を利用するとよいでしょう。
まとめ
任意売却は競売と比較して次のようなメリットがあります。
- 市場価格で売却できる
- 自己破産を免れることができる
- 引っ越し代を債権者が負担してくれることがある
- プライバシーが守られる
- 諸条件を自分で決められる
- 売却後に住み続けることもできる
競売にも多少はメリットはあるものの、任意売却の方があらゆる面で債務者の得になります。
住宅ローン返済の延滞が長期化することによって、債権者が競売の申し立てをする可能性が高くなります。
競売に至るほど長期間延滞する前に、早めに不動産会社へ任意売却の相談をしましょう。
なお、不動産会社によって任意売却の得意不得意があるため、任意売却の実績が豊富な業者へ相談するようにしてください。